優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

小さな幸せ

この週末、義両親が来る前に私一人でアパートに到着した。

1人で来るのは2回目。鍵を開けて玄関の扉を開けると、中に夫の存在を感じた。

誰もいない部屋に向かって、夫の名前を何度も呼び、話しかけた。

「夫くん〜?どこにいんの〜?」

「あれ、洗面所の方かな?」

「コーヒー買ってきたから淹れて飲む?美味しいかわかんないけど。お湯わかすね。」

「あれ、部屋にもいないのかな?」

「夫くん?」

「夫くん?」

言いながら、虚しい。最後なんて目の前が涙で見えなくなってもまだ呼んでる。けれど、これができるのはこの場所だけ。家の中のどこを見ても、ここに生活していた夫の姿が浮かぶ。台所で静かにコーヒーを淹れていた姿。洗面所の方にスタスタ歩いていく姿。力なさげに自室に座り込む姿。こたつで背中を丸めて座る姿。

2019年のホワイトデーに、初めて作ってくれたパンナコッタのデザートも、このこたつで出してくれた。夜9時まで帰宅しない私を、朝からずっと待ってくれていたのだろう。帰宅と同時に紅茶をいれてくれて、「はい、みんみん」ってデザートのプレートを出してくれた。体調が悪かったのに、夫はどんなに誇らしかったことだろう。作業が丁寧な夫は、盛り付けがとても得意だった。真っ白のパンナコッタの上に、お手製のキャラメルソースをかけて、りんごのコンポートをバラの形に整えて飾ってくれた。何度聞いても、私はブランマンジェだと思って、その度に「パンナコッタだよ」って優しく言われて、ああ、そうだった、みたいなコントのような会話を繰り返したっけ。私、なんであの時あんなにブランマンジェに取り憑かれたのだろう(笑)食費を節約していたから、プレートには家にあったオートミールや板チョコを散らして、ヨーグルトの水玉を落とした。バラのてっぺんに添えた緑の葉は、ミントと思いきや、なんと庭で育てたせり!それに大笑いして、私は嬉し泣きしながら食べた。病の嵐の中で2人とも苦しくて苦しくて苦しかったのに、なんて慎ましく小さな幸せだったのだろう。あの瞬間がまた手に入るなら、どんな病でも向きあえたのに。

どんな言葉にもできない、愛の痛みに襲われる。嬉しい、悲しい、幸せ、苦しい。

 

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