優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

バレンタイントーク②  〜夫くん編〜

夫と過ごす年間の楽しいイベントのトップ5をランキングするならば、バレンタインはそのうち第4位くらいには入るんじゃないだろうか。1位クリスマス、2位お互いの誕生日、3位交際記念日、4位バレンタイン、5位結婚記念日(日付わからんけど)、といったところだろうか。

夫と付き合い始めるまで、実家暮らしの私は毎年父親にチョコを作っていた。数日前からレシピを探して、美味しそうなものを手作りして、ラッピングもして、渡していた。夫と交際をはじめてからは、たくさん作ったチョコの中で、一番よくできたものを夫に渡す箱に詰めて、父にはいくつか残ったものを皿に載せて、サランラップをつけるだけになった。お父さん、寂しかっただろうな…。

夫は大の甘党だけど、どちらかというとチョコレート単品よりも、ザクザクしたクッキーにチョコがかかってるようなものが好きだった気がする。それでも、思い返せばバレンタインのチョコレートは別格で、まるで生粋のチョコ好きのように、毎年とても喜んでくれた。チョコを渡すと、いつも箱をあけながら溜息と共に「えー!おいしそー!」って言ってくれた。一粒手でつまむと、チョコを一周観察して、にやにやしながらそれを口に運ぶのだけど、口に入れた途端に、びっくりしたリスみたいに目をぱちくりさせて、「エッ、おいしっ!」って驚いてくれた。いつも当日いくつ食べるか悩みながら2個、3個と食べて、残りは後日に取っておいてくれた。その姿も、大切な食糧を蓄える小動物みたいで、宝物みたいに持って帰ってくれたっけ。あの姿を思い出すと、なんとも愛おしいなあ。

翌日以降は、仕事終わりのメールとかで、「今日も帰ったらあのチョコ食べるの楽しみ♪」と言ってくれた。私も、一番綺麗な出来栄えのものは綺麗なラッピングで渡したけど、夫のストックがたくさんあるように、その2倍くらいの量を別の容器で渡したりして、バレンタインの余韻が長く続くようにとせっせとチョコを作って渡した。

チョコ作りは、普通のケーキとかクッキーを作るのと違って、創作の幅があることが面白い。ガナッシュはこの味にして、外はこのチョコで、周りにはこれをまぶそうかなとか、ドライフルーツやナッツはこれを入れたらおいしいかなとか、いつもイメージが膨らんだ。夫に最後に手作りチョコを渡したのは、2019年のことだ。夫が大好きなホワイトチョコを使ったものにしようと思って、レモンの砂糖漬けを作って、それをホワイトチョコのガナッシュに刻んで混ぜ込み、丸めた周りをホワイトやビターのチョコでコーティングした。夫はその頃あんまり元気がなかったのだけど、チョコを渡すと、いつものようにとっても喜んでくれた。相変わらず、「エッ、おいしっ!」って言ってたなあ。この反応が見られて、私は嬉しかったんだよなあ。あれが、私が夫にチョコを渡せる最後の機会になるとは、思っていなかった。また来年以降、もっと元気になった夫に渡せると思っていたから、もう渡せないのは、とても悲しいことだ。

去年の今頃は、夫とのすれ違いがとても多くて、なかなか思うような関係が築けていなかった。私の手作りのものは食べたくないと言われて、私は初めてくらいに夫のために市販のチョコを買った。私は、La Maison du Chocolatのチョコがとっても好きで、夫もそのことをよく知っている。いつかのクリスマスに、本命のプレゼントの他に、夫がそこのチョコが何十個も入った豪華なボックスをくれて、私が大喜びした。あのお店のチョコなら、夫の思い出にも響いてくれるかなと思って買ったけど、「そういう風習はいいから。みんみんが食べて」と言われて、受け取ってもらえなかった。

夫が亡くなっているので、夫の好物を作ったりしたいと普段は思えないのだけど、今日ばかりは、ちょっと気持ちがなびいた。今日が夫の月命日だと気づいた母から、「みんみん、お花でも買いにいこっか?14日だから」と言われて、私は「やだ」と言って、泣いた。なんだか、お花をあげると、本当に死んじゃったみたいで、悲しくなってしまう。でも、バレンタインのチョコは、ちょっと作りたいなと思った。この実家の台所で、何年も作っていたんだもん。またここで作って、都内で笑顔で待ってる夫に届けたいなと思ってしまった。

こういう日は、本当に切ないね。