優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

サンフランシスコの人

ほとんど見知らぬ人に、連絡を取った。

夫が体調を崩す前に一緒に旅行したサンフランシスコで会った人。路面の洋服やさんで、夫はミントグリーンと黒のチェックの半袖シャツを買った。レジのお会計のとき、お店のお兄さんが、前に日本に滞在していたと言う。また行きたいと思っている、と。その人が滞在していた街は、私と夫が新婚生活を送った大好きな街だった。また日本に行くから、そのときは連絡を取ろう、とLINEを交換した。

日本に帰ってから、LINEをひらくと何度かその人と会った日に交わしたメッセージが目に入った。「あの人、今頃日本にいるのかな」と思った。でも、夫が会いたいかわからないし、体調の悪い夫にとって変な刺激になると嫌だと思って、連絡しなかった。そもそも、私と夫は、あの旅行からほんの数ヶ月と思えないほど、様変わりしてしまっていた。

夫が亡くなってから、夫と自分のやりとりを読み返したくて、パソコンのメールや、ケータイメールを何年分も遡って読み返していた。LINEも開いてみたけど、私は普段LINEは開いていなかった。いつ頃だったか、夫のIDが乗っ取りにあった関係で、少なくとも2人の間の連絡手段にはしていなかった。それでも、乗っ取られる前の夫のメッセージがあるかなと思い、過去へ過去へとメッセージのリストを辿っていった。下の方にきたところで、例の店員さんのメッセージを見つけた。

私の記憶はもう曖昧で、アメリカ旅行のどこで会った人だったけな?と思った。夫との思い出や、この人との思い出を取り返したくて、思い切ってメッセージしてみた。「NYの洋服やさんにいた?」と。ちょっと時間が経ったころにもらった返信で、彼にはサンフランシスコで会っていたことがわかった。今、日本の北陸地方で、日本語教師をしているらしい。やっぱり、日本に来ていたんだ。

突然へんな連絡をしてしまったことを謝りつつ、夫が亡くなったことや、どこかであなたと会ったけど、思い出せなくて、思い出したくなったと伝えた。彼に会った場所がわかったので、私の写真データの中からサンフランシスコのものを見返したら、確かに見つかった。夫は、晴れわたる西海岸の太陽の下で、嬉しそうに洋服やのショッピングバッグを持ってポーズを取っていた。思い出と思い出がリンクして、なんだか嬉しかった。

店員さんも、その写真が見たいと言ってくれて送ったら、とても素敵な男の人だねと言ってくれた。今は大変だと思うけど、何か気が紛れることがあれば、いつでもメッセージしてねと言ってくれた。

見知らぬ人に、幸せだった頃の2人の写真を見てもらって、感じるこの感覚はなんなのだろう?見知らぬ人だからこそ、与えられる損得勘定のない関心や愛情があるのかな。

夫が亡くなってから、何一ついいことなんかない。店員さんとのやりとりだって、何かがプラスになったわけじゃない。でも、幸せな頃の思い出から新しい発見をしたり、夫の写真を褒めてもらって、今この瞬間に、彼の死を悲しんでいていいのだと言ってもらえた気持ちになった。

いいことはないままだけど、だいぶありがたいな。ありがとう。