大切な人へどう伝えよう

夫が亡くなったとき、一番に浮かんだ人がいた。

一番に伝えたいっていうこととは少し違う。この結果を、一体どう報告しよう、と思った人。

その人は、私が唯一、夫のことを隠さず伝えている会社の同僚。会社で文句なく一番優秀な人。飛ぶ鳥を落とす勢いで破壊的に仕事をこなし、怖い者なしだと誰もが思っていた人。でも、その人もあることをきっかけに、心のパワーが底を尽きてしまった経験がある。一時は落ちるところまで、気持ちが落ちていた。それでも、今ももがき、苦しみながら、食らいつきながら、生きようとしている人。この人なら、きっと私と夫の状況をわかってくれると思って、定期的に飲みに行ったり、メールのやりとりをしていた。

いつも印象的だったのが、その人が私より先に、夫のことを心配してくれたこと。私の家族や友人は、一番関係の近い私のことを心配してくれる人が多い。それは、当然だし、有難いと思う。でも、その人は会ったことも、見たこともない夫の心境を思い浮かべて、旦那さんの苦しみはいくばくかと、いつも思いを馳せてくれた。そのことに、私が心を救われてきた。

いつか夫には、その人に会って欲しいと思っていた。夫に会って欲しいと思う人は、これまでなかなかいなかった。でも、その人に会うことは、夫にとって良いことだと直感的に思った。その人は、一瞬こちらが怖気付くような迫力とカリスマがあるのだけど、厳しい表情の奥に底無しの優しさ、気遣い、温かさを秘めている。そして、何ものにも替え難い、偽りのないまっすぐな言葉を放つ。この偽りのなさが、夫に必ず伝わると思った。夫はふわふわのゆるゆるなのだけど、静かに相手の態度や言葉を見抜いてしまうから。なんという厄介な能力。きっとこの2人が出会ったら、なにかはじけると思った。でも、そんな夢の面会も、叶わないままとなってしまった。

まだ、その人に夫のことを伝えられていない。こんな悲しい終わりを、伝えられない。あんなに応援してくれて、あんなに夫のこと、そして私のことも、気にかけてくれていたのに。その人もまた、生きること、死ぬこと、色々考えた経緯があるから、そのことも内心、心配してしまう自分がいる。

しばらく音信不通の私を心配してくれていると、人伝に聞いた。その人に全てを伝える時は、何時間も話したいな。その時は、私、悲しみでバーストしてしまうかもしれない。夫の苦しみは、ここで止まってしまったけど、その人の心の苦しみが続いているのなら、きっと私には昼夜問わず、いつでも連絡してほしいと伝えたい。そうしてもらうことが、私の救いにもなるのだから。