器をお貸しします
もし毎日出勤して、街中のイルミネーションを見なければいけなかったら、今頃ものすごく苦しかったことだろう。
クリスマスを思い浮かべるだけで、あまりに苦しい。
クリスマスほど、能天気に、意味もわからず、綺麗なイルミネーションを見て、美味しいものを食べて、お洒落をしたお互いをうっとり見て、微笑みあうような、そんな恋人たちのためのイベントなんて、ない。ただでさえいつも手をつないでいたのに、12月の冷たい空気で、一層ぴったりくっつきながら歩く理由がつく。ああいうとき、2人で何を話して歩いたんだろう。一歩一歩街中を歩きながら、どれだけ幸せだったんだろう。夫のあのコートの感じとか、私の手を自分のコートのポケットに入れてくれる感じとか、上を見上げて見える夫の表情とか、全部懐かしい。
夫とは毎年、12月に入る前から都内のいろんな場所にイルミネーションを見に行ったな。プレゼントもお互いをびっくりさせるものを準備して、カードだって沢山絵を描いて、シールを貼って、外食ならクリスマスソングが流れるような場所を選んで、自宅なら音楽をかけて、室内をデコレーションして、クリスマスって感じの食事を準備して、サンタの乗ったケーキを準備して。12月はまるごと、スーパーデート月間だった。
今、クリスマスソングなんて、一切聴きたくない。イルミネーションも一切見たくない。夫と無邪気に楽しんだクリスマスは、もう帰ってこない。もう春夏秋冬とかいらない。イベント好きの2人の思い出がどの季節もあるから、ぜんぶぜんぶ苦しい。
人生のパートナーがいなくなっちゃって、本当にどうしたらいいか、わからない。
平穏で幸せなあの日々に心から戻りたいのに、戻れない。
もう幸せ使い切ったから、この人生、いらないよーーーーーー。
誰かに自分という容器丸ごと貸してあげたい。けっこう生きやすい器だから、いいと思うよ。それで、私という中身は、さっさと夫のところに行きたい。夫と一緒がいいよお。