優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

2人の匂い

今日は少し荷物を紐解くことを試みて、アパートから持ってきた夫のスーツケース を開けた。

アパートで一回は選別して持って帰ってきた荷物だけど、またそれから時間が経って、今は違う愛着が湧いた。亡くなった直後の遺族感情とは、ある種合理的だと思う。夫の温もりがまだそこかしこにあるので、なんでもかんでもはすがらない。夫が途中まで食べたものがあれば、そのまま食べることに意味を感じるし、夫が使いかけの消耗品があれば、それから使っていこうと思える。本当は、それでいいんだと思う。そうしないと、夫との思い出を噛みしめるための家が丸ごと一棟必要になってしまうから。夫が亡くなったときのまま、全てを保管して、またそれとは別に全ての生活用品を買い揃えなくてはいけなくなるから。

今や、私の思考はそんな感じで、夫の物を使い切ることや、手放すことを、なんでも惜しむ。薄れていく夫の面影を辿るように、何にでもすがりたくなる。買取店か古着回収に出そうと思っていた夫の服も、全部取っておきたくなってきた。しかも、私の中で新たに分類を作ってしまった。それは、夫の服を「鑑賞(保管)用」と「私が部屋着で着る用」に分けること。ものが増える予感しかしない。

それには理由がある。夫が亡くなってから、夫の持ち物に夫の香りを感じることはなんとなくはあったものの、実はそこまでわからなかった。夫は普段からあまり汗もかかず、体臭とは無縁の人だった。香水とか化粧水とかだって無頓着で、それでいていつもツヤすべの綺麗な肌をしていた。でも、今日夫のスーツケース を開けたら、何か香りがして、それで「ああ、夫の香りは、これか!」と思った。試しに開けた私のスーツケースも、同じ香りがした。これは、2人の匂いなのか、と思った。2人の匂い・・・今の私がキュンとくる響きがある。そうなると、スーツケースの中身を取り出してしまうと、この香りはなくなってしまう。私が部屋着で着ると、洗濯されて、実家の柔軟剤の匂いになってしまう。そんなことを考えたら、荷物なんて解けなくなって、全部仕舞いなおした。しかも、匂いが逃げないよう、少し急いでスーツケース を閉めた私。アホだな〜。

そして、夫のスーツケース に、闘病が始まった頃に私が渡した手紙があったので読んだ。まだ夫の症状が何なのか、これからどうなっていくのか、わかっていない時期。いつも夫と手をつないでいたい。その手はいつだって離さず、ずっとつないでいるものだと、2人でちゃんとわかっておきたい。それで、余ったもう片方の手は、相手に優しくするために使いたい。そんなことを書いて、手をつないだ2人の絵を添えていた。最初から、最後まで、私はおんなじようなことを言っていたんだな。どんな時だって、2人は手をつないでる。そのメッセージを、伝えたかったのにな。

さらに、その1年前、夫と夢に向かってもがいた時期の私の手紙もあった。私のネガティヴな思考が夫に影響を与えてしまっているのではないかと反省し、私が自分のことで精一杯で、夫の相談相手になれていないことを詫びていた。全部、このときに、わかっていたんだな、と自分で改めて認識した。夫が苦しんでいることも、困っていることも、悩んでいることも。私がこの時に、責任を持って対応をすべきだった。

夫の理解者、失格。夫の救世主、失格。夫の妻、失格。

夫が体調をはじめて崩したとき、私は声をあげて泣いた。

「私ばっかり!私が自分のことばっかり考えてきたからー!」と。

この関係性には、夫のことをもっと考える役割が、私に絶対にあった。

大変そうな私を見て、夫が控えめに、大人しく、自分の中に苦しみを秘める姿が目に浮かぶ。みんみんを邪魔しちゃいけない、僕がみんみんの足手まといになっちゃいけない、と。そこに気付いてこそ、2人の関係性は成り立ったのだと思う。

夫くん、こんなん、私の人間力の問題。本当にごめんね。