優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

完璧な経理

昨日が仕事納めだったので、今日から1週間ちょっとは年末年始の休みになる。

今いる実家は私と夫のモノで溢れていて、年末になったらちょっと整理しなきゃと思っていたけど、その時がきてしまった。リビング横の一室を埋め尽くした段ボールは、そのまま運び出せば夫との生活を再開できるもの一式が詰まってる。夫さえ来てくれれば、完成する新生活パックというところか。夫さえ、いれば。

荷物のほどき方も難しい。例えば調味料。私の趣味が料理なことや、夫も料理は嫌いと言いつつ食べることは大好きだったから、醤油、みりん、酒なんていう基本的なもの以外にも、いろんな国のハーブ、塩、スパイスなどがたくさんある。夫が亡くなる前の数ヶ月、夫は一緒に暮らすと喧嘩になるからと家の外にいた。この離れて暮らした期間に私が買った調味料は、「これ買った時は、まだあの家に住むつもりだったな」くらいの気持ちで、親にどうぞと引き渡せる。

でも、その前に夫が買ってくれたものもたくさんある。夫は望まずして主夫業を担ってくれていて、いつだって食材のストックが切れることのないよう、時には最安値で売る店まで1時間歩いたりしながら、あらゆる備蓄を万全に整えてくれていた。

夫はよく、台所の開戸を開けながら、食材の在庫確認をしていた。親指の爪を噛みながら、「ふーん」と考え込んでいる。爪を噛むのは、夫が集中する時の癖だ。噛むというより、歯を爪にポク、ポク、ポクとあてる。ちなみに、何度も私がやめさせようとしたものの、結局やめさせられなかった癖でもある。爪を噛む夫を発見すると、遠くから私が「ポクポク!」と声を張り上げる。夫は、「あぁっ・・・(またやっちゃった)」と頭を抱えて見せるやり取りが毎日のようにあった。しかも、その1秒後には、集中体制に戻って、また爪を噛みだす。私はまた「ポク!」と警鐘を鳴らす。夫は「あぁっ・・・」と言う。そんな進展も、生産性もない、わちゃわちゃとした会話をよくしていた。本当は、辛い味のするマニキュアを買って夫の指に塗りたかったんだけど、Amazonで商品を見せたら、夫は「それは嫌」と言った。確かに夫は甘党だし、かわいそうだなと思って、やめた。

「みんみん、何か欲しいものない?」と聞かれて、私はパンやお菓子作りに使っていた小麦粉とか、強力粉をよく頼んだ。「オイスターソースもあると良いんだけど、高いんだよねえ。あと、バルサミコ酢とか、黒酢もいいな。ナンプラーも切れそうだけど、2本目を買うか迷う」。夫の中で、基礎調味料以外は嗜好品だから、買うまでに相当の熟慮期間があった。2人で決めた月々の食費額があまりに少なかったということもあるのだけど、それくらいゲーム性があった方が、夫も打ち込めるかなという気持ちもあった。

家計簿をつけることや、月々の上限額を決めることを提案したのは私だった。でも、それを私の何倍も遵守してくれたのは夫だった。私は何かあると、すぐ「臨時金」という秘技を口走ったけど、夫は今後の出費を事細かに算出しながら、自制と工夫でもって上限内に収めてくれた。夫がつけてくれた家計簿は、夫のちょこちょことした可愛い数字がびっしり並んでいて、その下に私が書き込んだ臨時金リストがたくさん並んでいる。今年の7月まで、その家計簿は続いていた。

2人で上野や新大久保まで出向いて、スパイスを買い込んだこともあった。買った後の用途は2人で違って、私はスパイスカレーに使っていたけど、夫は少しお洒落なアメリカ料理みたいなものに使っていた。さすがアメリカ文学の人。初志貫徹で、食事もアメリカ一筋だった。夫と一緒に買ったパプリカやコリアンダーの袋を見たら、夫の手でパッケージに購入価格が書かれてた。こんな形で残されたら、胸が詰まって、使えないよ。