優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

ポンプ式の不倫

今日も15時頃に起きて、生きがいを探していた。

最初に食いついたものは、美顔器。

私は美容家電にちょっとした憧れを持っていて、ケチな性分も相まって、数年前に適度な投資で程よい美容効果を得られそうなパナソニックのスチーマーを買った。買った時は、まだ夫も幸せで朗らかな時期で、私が温・冷と交互に出るスチームにリアクションすると、いつも笑ってくれた。いつも元気で揚々としている私が、冷スチームで冷たいスチームを浴びせられる様子が面白かった。私自身面白かったし、夫もいつも面白がって笑ってくれていた。

今や私の肌を誰に見せるという目的もなくなったけど、今手元にある自分という器への働きかけとしては良いかと思って、今日もいつもの通り温・冷のスチームを15分ほど浴びた。それで、化粧水やら乳液やらで肌を整える。

化粧水といえば、夫が体調を崩した際の笑い話がある。

夫が体調を崩した当初、夫は私が誰か他の人に心移りしたのではないかと疑っていた。

私自身、仕事のパワハラで打ちのめされていた時期で、どことなく離人感があった。夫は、私の浮わついた心の証拠として、髪型を変えたこと(確かに出張のために空港に向かう日、なぜか流行りの髪型を結った)、服装が全身黒づくめだったこと(確かにちょっとシックな印象になっていた)、そして何より、高級な化粧水を使い出したと指摘された。

私は学生時代から今までずっと、ドラッグストアの化粧水しか使っていない。その化粧水は定番の数百円のもののこともあれば、千円ほどのこともあるけれど、せいぜいそんなもんだ。例の美顔器さえ使えば、その後に塗るものがなんであれ、あるいは元がよければ、その後の処置がなんであれ、なんとかなるだろうと思っていた。夫が指摘した化粧水は、口コミサイトでは「全身にバシャバシャ使ってます」と言われる類の、ポンプ式だった。何を隠そう、菊正宗の化粧水で、なんと500mlも入っていた。そして、お値段は千円を切っていた。

夫に色々と疑われて、何ら疑わしい点のない私は必死に弁解していたけど、これだけはいつか笑い話として夫と話したかった。500ml、千円以下の化粧水を使う女性は、決して悪い人ではないと。決して浮気なんてしようとも思っていないし、100%現状維持しか目指していないと。

今となれば、夫くんのためにもっと高い化粧水を使って、綺麗になったと喜んでもらえればよかったという反省はある。でも、繰り返すけど、普通、化粧水はポンプ式なんかじゃありません。不倫のキーアイテムとしても、いささか面白アイテムにしかなりません。

私の浮わついた気持ちを疑って、悩み、困る夫を、優しく抱きしめてあげたい。戸惑わせるようなものを置いていて、ごめんね。ポンプ式では、不倫なんてきっとできないよ。うまく安心させてあげられなくてごめん。でも、これだけは、ちょっと面白かった。一緒に笑うはずだったんだよ。

ああ、こうなるんだったら、どっかの時点で、無理矢理蒸し返せばよかったな・・・。