優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

海の向こうから夫に届いたクッキー

夫が亡くなって、私は夫と2人で住んでいた社宅ではなく、実家に拠点を移した。夫が亡くなってから1ヶ月以上かけて、社宅の荷物をまとめて、補修をして、気持ちをなんとかまとめて、最後は社宅を後にした。

実家には、社会人になってからもずっと住んでいたので、大学で上京して一人暮らしをずっとしていた人に比べたら、社会人になっても実家に暮らすことには慣れている。私も慣れているし、家族も慣れている。だから、「特にこれが困る」というような実家暮らしの悩みはあまりない。むしろ、一切の家事や手伝いを放棄して、この世の終わりみたいな顔をずっとしているのに、この半年間、一切小言を言われていないのは、私の家族の優しさなんだと思う。なんなら在宅勤務をしていると、父が「Uber Eatsだよ〜」とか言いながら、コーヒーとお菓子を運んでくれる。私の部屋ではお菓子がたまりすぎて、夫くんの遺影の前に甘党の父チョイスのお菓子が積み上がっている。夫くんも同じ甘党なので、きっととっとこハム太郎みたいなリュンリュンの目をして、お菓子をハムハム食べてるんだろうなと思う。ああ、可愛いなまったく。ずるいんだまったく。

今、夫の遺影前に置いているお菓子の超目玉は、イギリスに住む友人が送ってくれた、フォートナムアンドメーソンのクッキーだ。ずっとずっと、私たちのことを気にかけてくれた友人。芸術肌で生活感がなく、口数だって少ないのに、誰よりも本当に支えようとしてくれた。その気持ちを、言葉で、行動で、いつも示してくれた。毎週毎週、メッセージをくれた。遠くから私たちに小包を贈ってくれた。長期休みをとって、私に会いにきてくれた。先日の私の誕生日だって、プレゼントを送ってくれた。泣けるほどに優しい。それなのに、私は彼女に素直に返信できなかったりする。今も2週間前にきたメッセージを、そのまま返信せず寝かせてしまっている。理由はいくらでもあるけど、そのどれも彼女は悪くない。ただ、私が心の準備をできていないだけ。トントンと進むメッセージで、軽やかに「最近どうしてるか」を話せないだけ。赤ちゃんが生まれたばかりの彼女と、何を共通項にやりとりすれば良いかわからないだけ。自分の気持ちや言葉が、陰鬱すぎて、100tくらい重さがあるんだ。気を使う相手には、表面のカラ元気で対応できるんだけど、この友人には気を使わないので、素の私なのだと思う。素の私は、ほんとに、威嚇されたはまぐりのように、無言。

彼女とやりとりする時は、夫の隣で無我夢中で食いしばっていた自分を思い出す。彼女だけがずっと心の支えだった。どれだけ励ましてくれたか。夫のことを一番わかっているのはあなただから、自分を信じてよいって送ってくれたときは、苦しさで爆発しそうな時だった。友人の言葉が嬉しくて、嬉しくて、画面をスクショして、保管したっけ。だから、彼女とやりとりすると、全て終わってしまったことを、尚更痛感してしまう。こんなこと、まだ彼女には伝えてないんだけど。

彼女が送ってくれたクッキーは、マカダミアナッツがたくさん入ってて、バターがたっぷりで、夫くんが大好きだった。夫くんは体調を崩してから私の悪意をいつも疑っていて、いろんなものをはねつけてたくせに、このクッキーは、怒りながら缶を抱えてむしゃむしゃ食べてた笑。目の前でやられるとめちゃくちゃに腹が立つんだけど、後から考えると笑っちゃう光景がたくさんあった。本当ならたくさん笑い話がある。その時の夫には面白みを共有できなくて、共有する機会がないまま、亡くならせてしまった。私は、なんでも笑ってしまうことが好きだから、ほんとにいつか、どんなに苦しい時間も、面白かった思い出に変えたかった。自分たちのちっささと滑稽さを、夫と笑い飛ばしたかった。そうやって、どんなことも2人で乗り越えてやってきたのにな。闘病中だって、ふとそうやって2人でフフッと笑っちゃう瞬間が、たくさんあったのにな。

夫がこのクッキーが大好きだと知って、私の友人はまた新たに調達したクッキーを2020年10月に私に送ってくれた。その頃夫はもう社宅にはいなくて、別の場所に暮らしていたので、クッキーをいつか夫に届けようと思いながら、まだ先で大丈夫と思ってしまった。結局、友人がまたクッキーを夫のために送ってくれたことを、夫に伝えられないままとなった。夫が亡くなって、ずっと開けられなかったクッキーを、先日の半年の区切りの日に開けた。塩党の私が食べても、夫の半分も楽しめない。自分の口の中が、夫が大好きな味でいっぱいになって、涙をこぼしながら食べた。

海を隔てたはるか遠くから、あなたを心配している人がいるって、このクッキーとともに夫に伝えたかったな。もう伝えられないことが、とんでもなく悲しい。友人にも申し訳ない。時間を巻き戻して、全部やりなおしたい。