優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

NHKスペシャル「若者たちに死を選ばせない」を見た

NHKスペシャルで自殺関連の特集をやると数日前に知って、実家の居間でこれを見るべきか、否か、数日考えていた。結果、何も知らずに大河を見ていた両親は、その後その番組が9時から流れたところでギョッとしたかもしれないが、そのまま居間で見させてもらった。20分ほど経ったところで父が席を立ち、また10分ほど経って母も席を立った。まあ、いいけどね。

他のどんな番組も関心は湧かないけど、私はこういう特集は、どんな内容を流すのだろう、という少しうがった見方も含めて、見たいと思うことが多い。私は夫が亡くなった一つの事例は知っているけど、その他の事例は何も知らない。だから、私の夫の事例をどれだけ汲み取れている内容だろうか、と思って見る。そして、他の事例はどんなものなのだろう、とも思う。

見た感想。

一番自分にヒットしたのは、亡くなった人の死因が「自殺」と判断されると作成する「自殺統計原票」というものの存在を知ったこと。この調査票は、警察庁の統計資料に使われるそうで、警察には過去30万人のデータがあるそう。

自殺者数|警察庁Webサイト

この調査票では、自殺の原因が最大3つまで選べるという。ということは、警察は夫についても、一方的にこの原票を作成したのか。私に統計に使われるという前置きもなしに。夫との未来をたった数時間前に失い、病院の安置所で、夫の遺体の隣で人生最大の衝撃を受けたばかりの私に聞いた話をもとに、夫のこの原票は作成されたということになる。

そもそも、私は警察の対応には相当な不信感を持っている。夫の事案は恐らく私が法的に訴えれば、施設の過失にあたると思っている。それなのに、警察は施設側だけを交えた現場検証を行い、翌日私たちには結果だけ伝えられた。施設はあの事件の直前、私たちからの質問に対して、施設設備に関する虚偽の情報を伝えていたのに、そのことは恐らく施設側から警察に伝えられていない。現場検証に私が参加していれば、当然その直前のやりとり、最低二回は繰り返したあの問答を伝えたのに、その機会からシャットアウトされた。たかが一人が亡くなったことを、面倒な事件にしたくないという警察の思惑も感じる。

そして今回の自殺統計原票だが、「原因・動機」の選択にあたり、夫は恐らく、「健康問題」に丸をつけられたと思う。私との衝突が増えていたと伝えたので、「夫婦関係の不和」にも丸をつけられたかもしれない。でも、あの時もしあの警察の男性が私に別の部屋で聞き取りを行ってくれれば、「親子関係の不和」という項目にも彼の33年間の人生をかけて深い丸をつけただろう。そんなこと、夫の両親が隣に座っているのに、私が口にするわけがない。しかも本人が亡くなった直後である。夫が悲しむような、そんな残された者の間の恨み辛みも含めた情報を言うわけがない。

あんな風に、警察がやっつけ仕事で動揺する遺族から遺体の目の前で取っている情報が1枚の自殺統計原票となり、統計となり、この国の自殺防止対策となっていくのか。

警察の対応で覚えているのは、夫が心の病があると伝えたときに、もう聴取が終わったような表情をされたこと。私はその警察の男性のやり方を好まなかったので、よく覚えている。恐らく、「精神疾患じゃ、死ぬよね」とでも言いたいのだろうなと思った。白髪でこの道ウン十年のベテランの彼からすれば、「あー、合点」という感じなのだろう。正式な診断はされていないと伝えたが、あの時私が過去の医師に推測されたものとして口にした病名も、確定情報で書き込まれたのではなかろうか。

仮にこれで亡くなったのが未成年で、遺書もなかった場合、警察からの聞き取りに対応するのは、保護者、特に親であることが多いだろう。親が自らの口から、自殺の動機として「親子関係の不和」や「その他家族関係の不和」や「家族からのしつけ・叱責」があったと警察に対して口にすることがあるだろうか?夫の両親だったら、仮に警察に尋問されたとしても、自らは言わないと思う。隣に全てを知っている私が座って、厳しい目線を向ければ、言うかもしれないけど。これは、病院のカウンセラー に夫の病状を話すときに一度経験した。その病院は家族相談として、私と義父で訪れた。というか、義両親にあらゆる意識が1年経っても芽生えないため、義父に依頼して、一緒にきてもらった。事前に義両親には、夫の生育歴を年表にして作成してもらった。義母は当日来ないが、年表作成を通じて過去を振り返ってもらう狙いが私にはあった。その散々な育児歴を当日のカウンセラーに見せて、義父から説明してもらった。説明を聞いたあと、カウンセラーから「それで、体罰はあったんですか?」と質問された。義父は口ごもり、とぼけた表情をした。隣にいた私が「あったんじゃないんですか?」と横から言ったら、「まあ、体罰というか、殴るのはありましたよね、成績が悪い時ですけど」と言った。あの時、カウンセラーの方が、「嗚呼・・・」という顔をしていたことが忘れられない。そして、夫が亡くなるまでずっと、ことあるごとに「暴力反対!」と私に訴えていたことも忘れない。ちょっと洋服をつかんだり、制止しようとすると、暴力だと言って激しく抗議された。その背景には、家庭での暴力のトラウマがあったのだと思う。あのカウンセラーと向き合った時、私があの席にいなかったら、そんな情報だって出てこないだろう。自覚がないし、本人たちはその事象があったことすら認めてもいないのだから。

話は自殺統計原票に戻る。まとめると、私がこれについて言いたいことは、一つ。このような統計を取るのであれば、警察には真実を聞き取るつもりで聞き取りをしてほしい。統計なんてものは、いくら統計的に有意な分析が出てきたところで、元データが不正確では、なんにも意味がないのだ。このことを、警察のお偉いさんには、文春砲ならぬみんみん砲で打ち込んで訴えたい。

特に、亡くなった人に「健康問題」、更には精神疾患があった場合に、自殺の原因や動機がそれだけで説明十分であると考えないでほしい。警察には、くれぐれもそのような思考回路にならないよう、他の要因についてもしっかり聞き取りを行うよう、あのベテランの男性も含めて、内部の教育をしてほしい。少なくとも私は、他の選択肢についてあてはまるか聞かれた記憶はない。せめてあの時、「実家の家庭環境はどうだったか」と聞かれれば、事実のままに伝えただろう。もし警察が本気で自殺の原因の統計を取るつもりがあるのであれば、あんなずさんな聞き取りで一人の尊い人間の死の原因を聞き取れたつもりにならないでほしい。

今日のNスペでは、いじめを苦にした自殺がとても少ない数値になっていた。それよりも「原因不詳」の自殺が近年多いという風なストーリーであった。親がいじめの有無を検証してほしいと訴えても、結局「いじめが原因とは言えない」という検証結果が巷でこれだけ出ていることを考えると、果たしていじめ関連の統計も正しいのだろうか?という疑念を持つ。

この怒りを、行動の原動力に変えていく日が来ればよいのだけど、私はただ番組を見て悔し涙を流すことしかできなかった。今はまだ、ただ感情的に噛みつくだけなんだなあ、私は。