優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

音の記憶

最近夫が亡くなったことから気をそらして生活していると昨日の記事で報告してから一夜明けて、今朝の私は、意識をまたグンと夫に引き寄せられることがあった。

私は、思考とか思い出に関する記憶力は良くないのだけど、耳から入る音はけっこうよく覚えている。受験生のとき、参考書を眺めても暗記ものが一向に頭に入らなかったのだけど、ふと自分が耳から聞いたことは覚えていることに気づいた。それで、高校生ながらに安いマイクを買って、年号やら歴史上の人物やらを、ありったけMDに吹き込んだ。私が世界史の点数が最後に伸びた理由の一つは、このラジオDJのような勉強法に辿り着いたからだと思う。

私は今も相変わらず、60歳近く離れたルームメイトと同じ部屋で寝起きしている。私たちが布団を並べて寝ている和室では、朝6時頃からルームメイトが移動を始め、8時前にはテレビがつく。普段は、このテレビをつけたとき、チャンネルはデフォルトでNHKになっている。だから、つけると同時に、俳優陣の張り上げた声が聞こえて(単に音量が大きいだけかもしれない)、数分するといつものメロディが流れて、15分間の連続テレビ小説がスタートする。

今日は、たまたまテレビをつけた時、違うチャンネルになっていたらしい。それで、ルームメイトはNHKにするべく、くるくるとチャンネルを変え出した。

その中の、ほんの一瞬、私の記憶にズンと刺さる音が聞こえた。

ナレーションの声と、何度も聴いたことのある音楽。

なんだっけ、これ。

すぐにはわからなかった。ルームメイトがチャンネルをNHKにセットした後も、私は爆音の主題歌の裏で、そしてトータス松本がダメな父親役でがなる裏で、一瞬聞こえた音の続きを思い出していた。

記憶を辿っていくと、聞こえなかった分のナレーションが思い出されて、番組名にたどり着いた。ハーフタイム・ツアーズだ。どこかの旅行会社がやっている番組だ。布団の中でネット検索すると、月曜から金曜まで、毎朝8時から15分間やってる番組らしい。この番組を見ていたのは、夫が2019年の頭から半年間、病から回復して、家事に邁進してくれていた頃だ。

私は低血圧が理由なのかは定かでないが、朝にとてつもなく弱い。超絶な夜型人間だ。だから、朝は天使のような優しい声かけを夫からもらって、それも1回じゃなくて、2回じゃなくて、3回目に「・・・みんみん、●時過ぎたけど・・・大丈夫?」と優しくも残酷な最終通告をもらって、ようやく飛び起きるような、まるで漫画みたいな流れで朝をスタートさせていた。夫がどう起こしてくれたかなんて、あまり回想したことがなかったけど、毎日とてつもなく優しかったな。。。書き出してみて、しんみりした。あまりに優しい声で、アルファー波がでていたから、私は誘われるように二度寝、三度寝をしていた。

そして、起きてからもまるでベルトコンベアに乗せられるように、私は頭を一切働かせないままのそのそと準備し、身支度を終えると、夫が完璧に整えてくれた食卓に座った。そこで夫が作ってくれた朝ご飯を食べまくって、美味しさからようやく目が覚めて、お茶を飲んでいると遅刻しそうになって、嵐のように家を飛び出していた。この一連の流れの隣で、テレビからは確かに毎朝、ハーフタイムツアーズが流れていた。

あまり注目をしたこともなかったし、違和感を持ったこともなかったけど、あの番組にセットしていたのは夫だ。夫が体調を崩す前、我が家の朝の番組は連続テレビ小説だったし、その後に続くのは朝イチだった。でも、体調を崩してからというもの、夫はそういうものは苦手だった。確かに、今の私ならなんとなくわかる。今の私も、毎朝ルームメイトが連続テレビ小説を流していることが、息苦しい。自信あふれる力強い声と音楽に、あの8時という時間帯のオモテ番組であることをヒリヒリと感じさせられて、今や日向より日陰の方が似合うようになった私は、居心地が悪く感じる。だから、一瞬も見ようと思ったことはない。どちらかというと、布団を被って、耳を布団で抑えて、すぐにでも眠りの世界に戻ろうとしている。

今日は、他にも色々とあった1日だったけど、私の中の今日の一番のニュースは、ハーフタイムツアーズだ。あの音楽とか、ナレーションが、ものすごく恋しい。あの頃に戻りたいとか、あの頃に戻ったら夫にこんな風に話したいとか、なんだか色々考えたけど、とにかく一瞬の音からたくさんの記憶が戻ってきたので、今日はそのことをずっと考えていた。