妻と夫の不平等

夫に対して私が言ったひどい言葉たちを少しずつ思い出している。

夫が本格的に体調を崩してから言ってしまったものも多いが、その前の段階で言ったものもあることに気付き始めた。夫が何事に対しても自暴自棄になり、こだわりが色々と強くなっていた時期、私は一緒に生活がしにくくなった夫にイラ立っていた。この時期、あるいはそのもっと前から、夫は誰にも苦悩を話せず、唯一の理解者であるはずの私にも振り向いてもらえず、自分の中で苦悩を深めていたと思う。そんな頃に、昨日書いたようなひどい言葉を、私は夫に言ったのではないか。確信は持てないし、自分で認めることすら苦しいのだけど、言ったのはきっとこの時期だった気がする。

この期間は、夢に向かってうまく進まないお互いを冷ややかに見る期間だった。これは、きっとお互いさまだと思う。でも、2人の間には、やっぱり力関係があった。どんなカップルだって、多少あるんだと思う。世の中はなんだかんだ男性の方が強い場合が多いと思うけど、うちはその逆で、私の方が強かった。私が目立つところをどかんと対応して、夫が細部を一緒にやってくれる。そのどかんと決めるプロセスは、相談しながらやっていたつもりだし、それ自体に夫が苦しんだことはないと思う。でも、関係がうまくいかなくなって、冷ややかな目を相手で見た時、この関係性は響いた。お互いが傷ついたと思うけど、強い私が夫を冷ややかな目で見るのは、いじめのような構図だったと思う。夫は気にしていないような素振りで、柄にもなく我を張っていたけど、内心、ものすごく惨めだったと思う。惨めだからこそ、あんなに我を張ったんだろう。でも、張れば張るほど、私に頼ることもできなくなったと思う。私だって、自分の方が強いことなんて、わかっていたと思う。なんてひどいことをしたのかと、自分で自分の言動を直視することができない。

お互いのよくないところを話すことなんて、これまでなかった。そういう批評をしあって、切磋琢磨するカップルもいるのだろう。うちは、そういう話は話題に上がったことがなかったし、相手が自己嫌悪に陥っていれば、全力で励ました。私であれば鼓舞するように励まし、夫であればそっと寄り添って励まし、お互いそれで、ずっと幸せだったんだと思う。

夫が生きていれば、私がいつ、どんなタイミングで、どんな顔をして夫にひどいことを言ったのか、きっとその場面をよく覚えていると思う。今夫は、その苦しみを全て抱えたまま亡くなってしまったので、聞き取ることもできない。謝ることだって、もちろんできない。謝るための時間は、もう十分すぎるほど与えられていたのに、ずっと問題の根元を取り違えていたことが、今更のことなのに、ようやくわかった。

本当に皮肉なことだと思う。自分の手の届く問題が目の前にポコポコとあったのに、もっと夫の深い部分の苦悩に迫ろうとしていた。解決する意思も能力もない人たちとの問題解決に、蚊帳の外から躍起になっていた自分。私との関係が、夫の最後の駆け込み寺であったが故に、その場がなくなって夫は苦しんだのに。私ができることは、そこだったのに。

今朝も、目覚めと共に全部夢だったりしてと思って、明らかに実家の風景なのに、夫と暮らしたアパートの風景を探していた。そんな風景はもうないと感じる瞬間が、言葉で言い表せないほど、つらい。