優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

最低の言葉を編み出す力

私が大学に入ってから、1人だけ、人間的にものすごく好きな先輩がいた。

4歳くらい上で、私にとってとても特別な人。ものすごく優しい。ものすごく面白い。サークルの中で、カリスマみたいな人だった。大学2年の冬、先輩だった彼からデートに誘われた。どういう経緯で誘われたか、自分でも覚えてない。でも、1、2回デートをした。デート先は、私の好みと全然違った。多分、笑いのツボ以外は全然合わなかったから。

先輩のことはものすごく好きだったけど、異性としてというより、尊敬というか、カリスマとして好きだった。しかも、私が思っている自分像と、先輩が描いた私像が同じかわからなくて、先輩の面白すぎるトークも笑えなくなってしまって、やっぱり先輩は私にとって先輩だなと思った。

そんな明確な言葉を伝えたかすら忘れてしまった後で、夫が大学に入学した。夫はサークルに入る意思などこれっぽっちもなかったけど、私にズキュンと矢を放ち、私がいたサークルの新歓にやってきた。全くなびく素振りもない夫に、サークルの先輩たちは面白がってたくさん話しかけた。1年生が大量に押し寄せた飲み会も一段落する頃、2次会、3次会と続く中で、先輩の誰かが夫に電話をかける。夫は、その一風変わった様子から、サークルのカリスマたちに気に入られていた。私がデートをした先輩は、誰よりも夫を気に入っていた。私は覚えている。お金のなかった夫の食事代を、先輩が肩代わりしていたこと。飲み会の後、猫背の夫が先輩のところにテテテッと寄っていって、耳元で小さな声で御礼を言う姿。斜に構えたニヒルな夫が、明るい先輩の耳元でささやいて、夫はキャラクターにも合わずペコペコし、先輩は大らかに笑っていた。私は、なんとも言えない気持ちになった。私が夫を好きなことは誰も知らない。私が先輩とどうなってるかも誰も知らない。でも私の過去と現在の人の間に、何か絆が生まれていた。

ずっと私の中の大切な思い出だったことも、夫との関係が崩れる中で、私から夫への最低の悪口に変わった。「その気がないように見せて、人におごらせるのが上手」。先輩もおごった、私もおごった、いろんな人が夫におごった。奢られて罪悪感を感じていたのは夫だった。自分に合った労働の形を見つけられなくて苦しんだのも、夫だった。こんな言葉を夫に言ったのは、私。なんであんな汚いことを言ったのかな。言ったタイミングすら覚えていない。その時々に依存して、紛れさせて、生きることの苦しさをしのいできた夫を、責めたのは私。私自身は別に気にしていない一面なのに、夫が気にしているとわかって、言い放った。書き出してみて、やっぱりどうしようもなくひどい言葉だな。体調を崩してからというもの、なんでもかんでもがむしゃらに言い返してきた夫も、こればっかりは真意を問いてきたように思う。「どういうこと?」って。そりゃ、そうだよね。なんてちっぽけで、どうしようもない人間に夫は捕まってしまったのか。なんで私は、こんなに夫を傷付けようと、必死だったのかな。