優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

夫の七不思議

夫大好き人間の私は、夫の生前から今まで変わらず、夫はこんな人だよね、こんなところが良いよね、こんなところが本当にしょーもないよねと誰かと話したいと思っていた。でも、夫と出会ってから今まで、夫のことを話題に盛り上がれる相手は、実はほぼいない。夫のことを一番よくわかってたのは私だから、私ほどのマニアック度合いで夫について話せる人はいないのだ。

義両親は、夫への理解が一面的で、夫の複雑な表情を知らないから、ちょっと物足りない。

うちの両親は、夫が遠慮した時に見せる緊張で凝り固まった姿で理解が止まってる。

私の友人は、そもそも夫に会ったことがないか、会ってもやはり夫が緊張していた。

夫を可愛がってくれた大人も、夫の誠実さや憎めないところは知ってるけど、やはりこれも一面的。

どんな人もそうだけど、夫はとてもいろんな魅力を持っていた。でも、その魅力は本当に安心できる相手にしか見せなかった。

例えば私自身で考えると、夫が持つ私のイメージと、私の親が持つ私のイメージと、友人が持つ私のイメージと、職場の私のイメージは、共通項が多いと思う。多分、8割くらいは共通なんじゃないかと思う。

夫の場合は、多分逆で、2割くらいは共通。残りは知られざる魅力として心を許した人にだけ公開された。

普段は真面目で、ちょっと芸術肌で、穏やかで、頼りないような、優しい雰囲気だった。イメージでは、NHK連続テレビ小説に出てくる昭和初期の画家とか発明家の雰囲気、と私は思っている。これが多分ほとんどの人が見たことがある姿。

一方、私の前では、よくおちゃらけて、変な踊りをしたり、おかしなポーズを取ったり、お調子者だった。疲れた時や、弱った時は、すごく甘えんぼうで、上目遣いに私がホイホイ乗せられた。私が甘えたときには、包容力のあるお兄さんのような一面もあった。どれも、夫が私に普段から見せる姿だったのだけど、多分、真面目な姿以外は知らない人が大部分なんじゃないかと思う。

もしかしたら、夫の友人なら夫のいろんな顔を知っているのかもしれないけど、私は実は紹介してもらったことがほとんどない。

夫の友人のセンスは、不思議だった。これは、夫の七不思議の一つ。大学に通っていると、私の周りにはとても良い子がたくさんいた。友達思いで、家族思いで、勉強も頑張って、「あ〜、この子の親御さんはいい子に育てたもんだね〜」としみじみ思うような子が多かった。でも、夫の友人は、そういう人があんまりいなかった。夫自身はとても誠実で真面目な人なのに、夫の友人は結構ワンマンぽかったり、ちょっと倫理的に微妙だったり、ややぶっ飛んでたりした。それだからか、私がいつか会ってみたいと言ったときも、「みんみんはきっと好きじゃないと思うよ」と言われた。夫からしたら、私がお母さんみたいに登場するのが恥ずかしかったのかもしれない。それか、単純に水と油に思えたのかもしれない。

大学のクラスには、明らかに優しそうな子がたくさんいるだろうに、なんで夫はいかにもちょっと悪巧みしてそうな人と友達になるんだろう?遊んだ帰りに連れ立って風俗に行くような友人たちの中で、夫だけ必ず不参加を貫いて帰宅していた。でも、それって居づらくない?と思ってた。夫はその流れが嫌なんだといつかぼやいていた。そして、「みんみん、男の人は、みんな行くんだよ!行かない奴なんていないから。僕くらいだよ」って言ってた。夫は、彼女の私よりも、そういうことが嫌だったみたい。

それで話は飛躍して、夫がフリッパーズ・ギターが好きと言ったときに、私が内心気になったことがあった。私が小学生くらいのときに、小山田圭吾を好きになった。音楽とかルックスとかが、なんだか好きだった。その後、しばらく忘れていたものの、私が高校か大学くらいの時に、小山田圭吾の雑誌記事が取り沙汰された。その内容がエグくて、私は人間的に苦手だなと思った。

夫がフリッパーズ・ギターが好きと言ったとき、私はその話もしたと思う。でも夫はそれ以降も、フリッパーズ・ギターを時々聴いていた。確かに、芸術と人間的に好きか嫌いかなんて、分けるのが妥当なんだと思う。でも、夫はきっと小山田圭吾が学年にいたら、友達になるんだろうなと思った。きっと、彼みたいな人に夫は気に入られて、友達になっている気がする。それが、オザケンなのかもしれないけど。

と、何もわかっていない私が人様の人間性を語る資格なんてないのだけど、夫とは価値観が似ていると思っていただけに、こういうところがなんで考え方が違うのか、いつか深く話してみたかった。もしかしたら、夫はそういう人にこそ偽りではない優しさとか、何かグッとくるものを感じていたのかもしれない。それとも、男子校的なノリで、ちょっとイケてる中に身をおきたいとか、あったのだろうか。

今となってはそんなことも聞けないのだけど、そんな夫が、なぜこの堅物で剥き出しの正義感を持った女を好きになってくれたのか、センスに違反してたんじゃないか、本当は結局なぜ私を好いてくれたのか、聞きたいだけなんだけどね。