優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

良きルームメイト

また親友からメッセージをもらった。意訳をすると、「みんみん、どうしてる?コロナでロックダウンになって、もうほとほと疲れたよ!」という内容。まだ返信できていないのだけど、なんて返すか迷っている。夫の闘病中は、彼女のメッセージにものすごく救われていた。夫を追いかけ回す日々を送っていた私の生活の中で、彼女からの連絡が、日常の感覚をふわっと取り戻すきっかけになっていた。前だったら「うん、なんとかやってるよ、コロナで本当に嫌だよね」なんて返して、それ以外におしゃべりもして、英気を養わせてもらっただろう。

親友のメッセージはその時から変わらずこのスタイルで、きっととても意識してそうしてくれてるのだと思う。変わってしまったのは私の方で、今、気分転換ということをしたくない。気分転換をすることが嫌すぎる。夫の海に沈んでいたい。海の上に上げて欲しくない。もっともっと深いところに沈みたいけど、怖いから沈めなくて、そのまま中途半端なところで、私はぐちゃぐちゃ言っている。

こういう自分の扱いづらさに対して、おばあちゃんが貫く会話の無難さと破壊力には、日々脱帽している。おばあちゃんの部屋で寝起きすることは夫が亡くなってからずっと続けていて、ルームメイトになって早ひと月半が経った。今のところ、デメリットはほぼ感じてなくて、良きルームメイトに恵まれたなと思ってる。おばあちゃんは毎日、早朝に目を覚ます。とても生真面目なので、起床と共にむくっと立ち上がり、周囲の雨戸をガラガラと開けだす。おばあちゃんはとても耳が遠いので、その音はけたたましいのだけど、本人はあまり意識していない。私も眠りが深いので、その音で確かに目は覚めるのだけど、またすぐ眠れるので、大した問題ではない。それからしばらくは私も寝ているので、おばあちゃんが何をしているかは知らない。でも、朝の連続テレビ小説の少し前くらいから、爆音でテレビが流れ出す。その音も、私には入眠のBGMくらいに感じられるので、支障なく寝ていられる。普通の人は、おそらく難しいと思う。連続テレビ小説が終わると、おばあちゃんは速攻にテレビをシュンと消す。途端に部屋には静寂が訪れ、おばあちゃんは畳に置いた椅子に何をするでもなく座っている。そして、私が目を開けていると、話しかけてくる。

今朝もおばあちゃんは何かのテレビを見ていた。今朝は10時すぎまで私が寝ていたので、おばあちゃんは直前まで旅番組か何かをみていた気がする。そして、お決まりの唐突なテレビの消し方をしてから、私に声をかけてきた。

「今日はすごくいい天気。風がない」

「今日は・・・29日か」

「あんたは丑年?」「だったら来年はみんみんの年だねえ」

「みんみんは、身長160あるの?」

「昨日はだいぶ遅くまで起きていただろう」

「昨日送った宅急便は、何時にあちらに届くのだろう」

全部、YESかNOで対応できる話題な上に、わからないものは首を傾げれば難なくクリアできる。例えば、宅急便の話はわからないので、寝ながらにして首を傾げておいた。気分転換はしたくないけど、これだけ自然体で無難な話題を振ってもらえるのは、結構いい。海の上に上げられるのは嫌だけど、沈んでる中でもちょっと栄養補給をさせてもらえる感覚か。自分から頼みはしないものの、全体としては良いことなのだと思う。

夫もいつもおばあちゃんにとてつもなく優しくしてくれた。きっと今私がおばあちゃんと一緒に寝起きしていて、安心してくれていると思う。もっと夫と一緒におばあちゃん孝行をしたかったな。色々、悔やまれることが多い。