優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

思い出フラッシュ

今日は夫と住んでいたアパートのポストに郵便物を見にいくことにしていたんだけど、午前中泣いて過ごして、昼すぎから出かける準備をしているうちに、だんだんだんだん気持ちが重たくなって、お化粧までしたのに、結局出かけなかった。

きっと夫も私の出かけるのを待ってくれていたかもなと思いながら、どうにも行けない気持ちになってしまった。化粧をしながら、夫はこの顔がとても好きだったんだなあ、なんて鏡に映った自分を見てじわじわ涙があがってくる。このまつげをくるんとさせると、面白がってまつ毛を触りにきたなあ。前髪が鬱陶しいから、切ろうかなと思って切り出したら、どんどん短くなって、最終的にぱっつんのようになった。それが、最近の暗い自分の表情を少し明るくさせたようで、また、夫ならこの髪型を褒めてくれたかなと思った。髪の毛をつやつやにすると、いつも頭に手を添えるようにして優しく撫でてくれた。そんなことを考えたら無性に悲しくなって、鏡に映る自分の顔を見て、また夫が好きな顔に遭遇してしまって、もうなにがなんだかわからないけど嫌になってしまった。

夫はいつも私が美容院に行くのをとても楽しみにしてくれた。美容院に行く前に次の髪型をたくさん相談したし、私が一生しないだろうと思っていたショートカットに何年もしていたのは、夫がショートカットが好きだからだった。美容院でのカットが終わると、いつも夫に電話した。フットワークがすこぶる軽い夫は、いつも原宿まで仕上がりを見に来てくれた。それで、待ち合わせ場所の路上で、シャーロックホームズみたいに顎に手を当てながら私を見て、「うん、いいね・・・みんみん、ちょっと右向いて。後ろは?うん・・・だいぶいいね」と褒めてくれた。熟考してる人みたいなポーズだったけど、毎回言うセリフは同じだった。毎回、だいぶ良かった。

出会った頃の私の髪型は、顎より少し長いくらいのボブだった。私の輪郭や顔立ちには一番ボブがしっくりくると自分では思ってる。またボブにしたら、夫も何か感じてくれるかもしれないと思って、今年の10月、7年ぶりくらいに髪を染めて、ボブにした。夫が体調を崩してからというもの、私の髪型に関心を持ってもらえることはあまりなかったけど、最近は昔通りの会話ができる時間もたくさんあったから、少し期待していた。いつも通り、美容院終わりに夫に駅から電話をかけた。「美容院行ってきたの!ボブにしてもらったよ。結構思った感じになった!」と言ったら、とても関心を持ってくれて、「そうなんだ、良かったねえ」と言ってくれた。「でも色が思ったより暗い。もうちょっと明るい方がいいんだけどなー」と言ったら、「いいんじゃない?あとは明日見てみてだな」と言ってくれた。翌日、会ってわたしを見るなり、ちょっと笑いながら、夫が「すごいね」と言う。「え?どういう意味?」と聞いたら、「こういう風には最近なってなかったよね。だって、大学のときみたいになってるじゃん。今行ってる美容院、技術がすごいね」と言われた。きっと、あれは夫からの、最高の褒め言葉。驚いて笑っちゃうくらい、喜んでくれた。

今はやること、為すこと、全部夫との思い出に直結するから、一つ行動起こすのも一苦労。身支度するだけで、この有様。思い出フラッシュが止まらない。でも、まあ、こんなことをだらだらとしながら寿命がくるんだったら、それはそれでいいのかもしれない。一挙一動に、死ぬほど時間をかけてやると思いながら、今日アパートに行くことは、やめた。