洋服たちとのお別れ
夫が亡くなる2ヶ月くらい前だったか、2人で夕飯後に一緒に散歩してるときに、私が「昔の服、捨てよっかなあ」と言った。
夫は、少し間をおいてから、悲しそうな声で、「捨てないで」と言った。
「なんで?」と聞き返すと、「だって、懐かしいじゃん」と言われた。
そう言ってもらうのを、私も待ってたんだよね。嬉しかった。私が夫の洋服から下着まで、全部思い出を感じるように、夫もまた、どんなによれよれになっても、色あせても、私の服を見て、思い出す思い出があるのだと思う。
私が自分自身の服を見てもそう思う。私のワードローブは学生時代からの服が溜まりに溜まってすごいことになってるけど、そのうちお気に入りが20着くらいあるとしたら、半分以上は夫からもらったもの。夫はチャラチャラした流行みたいなものには疎くて、出会った時は洋服に関心もなかったけど、とてもセンスがよかった。あまり人の目を気にしないから、私へのプレゼント選びの時は一人で女性服のお店に入っていって、私と似た背格好の女性の店員さんに試着などをお願いしていた。それでウーン、ウーン、と考えて、何日もかけてとびきり似合う一着を選んでくれた。
夫が私の洋服に愛着を感じてくれていることが嬉しくて、一掃計画はやめた。そんな会話の後に、夫がいなくなったのに、ワードローブは夫に見てもらうための服が詰まったまま。
あれもこれも思い出、なんて考えても、本当に虚しい。夫にもらった洋服はお気に入りだから捨てないけど、夫が思い出を感じてくれた私の古い服は、もう年内にお別れしようと思う。思い出を感じてくれる人が、いなくなっちゃったからね。