蚕のまゆ

夫がこの世にいなくなって、残された私には2つの合理的な選択がある。

1つは、夫と同じ場所から同じ方法で同じ運命を辿り、夫と同じ経験ができたことに一人悦びを感じること。あの世とか来世で夫と会えるか会えないかなんてわからないけど、夫がいない世界に生きる意味を感じられない私にとって、今すぐそんな行為にでることはまったく想像できないし、こうやってここで吐き出しているだけではあるけど、よぎる選択肢ではある。あらゆる現状の条件を踏まえると、むしろこの選択を取る理由しか今思いつかず、ただこれまで自分の命を葬ることを考えたことのない人間だから、現実味はないというパラドックスのような状態。

もう1つは、夫がいない中で、この世界で生きていくことで、生き抜くための装備をこれから時間をかけて揃えていくこと。単なる生きがいを見つける、とかじゃなくて、私には独り身で生きることは想像できないから、当然それはパートナー探しということになる。

本当にアホな話なのだけど、同年代くらいの男性で、ちょっとしたサービス業の人とかと、なにか街中などで会話したり、私の家族も含めて談笑したりして、その瞬間、この穏やかで頼り甲斐ありそうな人と、まっさらな人生を歩み出したりして、そうしたら家族も私も幸せになっちゃうのかなとか思って、そんな状態を想像するだけで涙がでてくる。夫がいない世界で落ち着く自分を想像して、泣く。夫のへなへなでふわふわで優しくて可愛いのが好き。なんにも頼りにならないのに、蚕のまゆみたいに優しく包み込んでくれるところが大好き。

誰に何を言われているわけでもないのに、一人で考えて、一人で泣いてる。アホらしすぎて、何してんのかなと思う。でも、それしか未来に道がないことに、大いにヘコむ。