優しくて可愛くてかっこよくて大好きな夫と死別しました

事故か自死か。夫が消えた人生をこれから歩みます。なんて自分が書いてることが信じられない35歳です

間違って帰還した浦島太郎子

自分の人生をまるごと変えてしまう夫の死からまもなく2週間。

なんだかもっとずっと長い時間、この闇の中にいる気がしてしまう。

夫が病と闘っていた2年間は、世間から切り離された激情の世界に2人で生きていたから、久しぶりに超平凡な淡々とした日々に舞い戻って、浦島太郎のような気持ちになる。2人でこれに戻ってくるつもりだったのに、私1人だけ間違って戻ってきてしまった。

女の子だから、浦島太郎子。太郎子は亀ではなく、台風に乗っていた。今世紀最大級みたいな台風たる夫にしがみついて、愛と信頼を試し合いながら日本列島を一緒に横断してきた。それなのに、どこかで私だけ振り落とされて、何もないだだっぴろい大地に置いていかれた。その大地は豊かでもなく、貧しくもない。美しくもなく、醜くもない。険しくもなく、なだらかでもない。ただただ平凡で、世間一般を画にしたような世界だ。台風で巡っていたときは、あんな大地の上で、平凡な家庭を築いて、平凡な生活をする道を選べばよかったと思ったことも数知れない。何故夫のように不器用で、理想が壮大な人と一緒になったのだろう?よく巷で言われるように、恋と結婚はやっぱり違ったのかもしれない。自分がこれまで冷たい視線を送っていた安定最優先の結婚観も、自分より正しかったと認めるように傾倒していた。もちろん、そう思うのは全く不思議ではないほど、台風にしがみつきながらの生活は大変なものだった。

でも、この刺激のない平凡の中に戻って思うのは、やっぱり私は台風でもいいから夫と一緒にいたかった。もっともっと台風と一緒に時間を過ごせば、私の支え方も上達して、良い台風使いにすらなれたかもしれない。

本当は世の中には平凡なんてなくて、どんな家庭もその家庭ならではの個性と愛があるんだろうけど。あるいは平凡という中に絶ゆまぬ努力が隠れているのかもしれないけど。今はただそのあたりは単純化して、安定を求めた自分に、「安定してみてどう?」って聞いて、やっぱり安定より何より夫だな、と思ったというお話。