1ヶ月後
夫が亡くなったことの衝撃に加えて、私が夫の死後、生まれて初めて体験しているのが、私という個人が、誰かの死を背負って生きるということ。その誰かの死というのはもちろん夫のことであって、その事実は私がそれを自覚するよりも前、亡くなった直後から今…
これまで生きてきて、私は死にたいと思ったことはなかった。生きることと死ぬことの意味も考えたことはなかった。一度だけ、大学1年生くらいの時、寝起きに「生きることと死ぬことの意味が、わかってしまった!」というエンライトニング的な瞬間があったんだ…
今日は結局一切なにもしなかった。 昼過ぎにソファから食卓に移ってお昼を食べて、そのままずっと食卓にいた。私は一度どこかに腰を落ち着けると、動けなくなるらしい。おばあちゃんの方がよっぽど活発に動き回っている。おばあちゃんは今日、午前中に補聴器…
今日は朝ごはんの後で、おばあちゃんの補聴器修理のために両親とおばあちゃんが3人で外出すると言う。朝ごはんを5分くらいで食べ終えた私は、無表情でソファに直行して寝っ転がった。一度転がったら起きる理由がなくなりそうだなと思いながら。補聴器屋に行…
昨日が仕事納めだったので、今日から1週間ちょっとは年末年始の休みになる。 今いる実家は私と夫のモノで溢れていて、年末になったらちょっと整理しなきゃと思っていたけど、その時がきてしまった。リビング横の一室を埋め尽くした段ボールは、そのまま運び…
夫にしてもらって嬉しかったことっていくらでもある。 夫はいつだって私を喜ばせようとしてくれたし、私も夫を喜ばせたいと思ってきた。 それは、こうしたら喜んでくれるかな、と想像したときに、夫だったら私のはじける笑顔、私だったら夫が驚いて喜んでく…
よくニュースとかで、事件や事故の遺族の方が、時計の針が止まったままです、とコメントされるのを聞くけど、私の今の気持ちも、本当にその通り。夫が亡くなってからの時間は、生きてるんだけど、心ここにあらず。ひたすら夫が亡くなる前までのことを、ずー…
「今日は夫に会いにいくぞ」と最後に思えたのはまだ1ヶ月ちょっと前なのか。 夫が生きていることが当然の世界で、まだまだ2人で苦難を乗り越えていくつもりでいた頃。ようやく何か光が見えるかもしれないと思って、これからが正念場だ、年末までに何とか現状…
昨日はたくさんお酒を飲んだ。夫が亡くなってから、一番たくさん飲んだ。お酒を飲んで、夫についてはあんまり考えなかったけど、酔っ払う感覚もなかったな。 夜中には隣で寝てるおばあちゃんが頻繁に唸ったりして、私も何度か目が覚めた。眠りと目覚めの間を…
今日は日中は泣かなかった。クリスマスってだけで気持ちがつらいから、ストッパー発動かもしれない。夫の荷物に目をやって、今日ばかりはどっかにいることにしとこうかなと思った。今日は、このまま涙もなく1日を終えようかな。きっと、今日の私ならそうでき…
よく、恋人や配偶者が亡くなった後に、亡くなった相手が天から「いい人みつけてね」と思ってくれてるはず、と聞く。そう思い合えるカップルは確かに多いと思う。残された方としても、できればそう思ってほしいと思う。でも、私の夫の場合、そんな気持ちにな…
夫が亡くなる前の最後の瞬間、夫はどれほど悲しかっただろう、苦しかっただろう、悔しかっただろう?夫が亡くなってから、ずっとそのことばかり考えていた。最後の瞬間に夫を覆った感情は、どんなものだったのかとか、とても抽象的で、圧倒的で、夫をまるご…
何日か前、自分のブサイクさにハッとしたことを書いた。 なんでかなって思ってたんだけど、昨日鏡を見ていて、謎が解けた。 前の自分となんか違うぞ、悲しみで全体的に顔が下がってる、とかだけじゃない。 よーく見つめて、思った。 「ん・・・・なんか、顎…
仕事をしていると思う。嫌な人なんて、この世の中にいくらでもいる。 嫌な人にこそバチが当たればいいなと思ってるけど、私が知ってる嫌な人は、全然バチなんてあたりそうもない。少しでも抵抗をかぎ取ったら、どこまでも私を追いかけてくる。目つきが殺気立…
今日は結構、まずいかもしれない。 いつだって夫が恋しい。夫に会いたくてたまらない。でも、今日は、その会いたい気持ちがフッと湧いた。「あ、会いたいな」って。なんだかとても軽く湧いて、自分はまだ夫がこの世にいることを求めているなと感じた。それく…
今日はイヴなのか。 外出しなくてよくて、良かったな。クリスマス気分ほど今見て悲しいものはないな。夫も私も、一番好きなイベントだったし。意味もなく明るく楽しく幸せなんだもん。それはもう、そこはかとなく。 2か月前の今日、最後に夫に会った。あの時…
全然比較しなくていいことなのに、悲しみの比較をする自分がいる。 同じ夫が亡くなるでも、こんな死に方だったら心持ちが違うのになとか、これだったら割り切って前を向く自分を許せるかも、とか。 でも、それってきっと人それぞれだし、隣の芝は青いみたい…
夕方、気持ちが少し上向いて、自分を慰める文章を書いたのだけど、少ししてすごく嫌な気持ちになって、消してしまった。やっぱり今の私は、自分自身が慰められることをよしとしないらしい。自分は救われたいけど、自分を救いたくない。救えなかった夫の隣で…
ずーーーーーん。 どよーーーーーーーん。 がびーーーーーーーーん。 夕方に差し掛かって、目先20cmにある夫の遺影を見ていると漂う気持ち。 闘病が一番苦しい時期にも、ふとした瞬間にコミカルなこと言って、笑ってた私たち。あの笑いがあれば、やっていけ…
とてつもなく優しい夫は、暴力が大嫌いだった。 言葉の暴力も嫌いだし、体をつかった暴力なんて、もってのほか。 私は夫にツッコむとき、ベシッて腕くらい叩くことがあったけど、夫から叩かれたことなんて、一度もない。むしろ、掴まれたり、押されたり、な…
いつもより穏やかな気分で1日が始まったのに、ふとしたことでスイッチが入る。 穏やかになんて、なるわけないのにね。 夫が亡くなったときの音、聞いてないのに、耳に刺さってくる。夫くんが息絶えた姿が、今日はハッキリと浮かんでくる。あんなに一瞬、あん…
まだ亡くなって1か月なのか。なんだかものすごく長かったな。それだけ一日一日を生きるのが大変ということかな。今いないことが信じられないけど、少し前までいたことも、信じられない。今こんなに願っても叶わないことが、ほんの1か月前は叶っていたなんて…
私と夫は、どんだけ儚かったんだろう。どんだけこの世でやっていけない2人だったんだろう。なんとなく気づいてたけど、よく色んな人生の話で聞くじゃん?ずっと夢を見て生きて、ある時叶っちゃう話とか、叶わなくてもあれよあれよと新しい幸せにたどり着いた…
夫との何を思い出しても、悲しい。 闘病期間中に、夫と自分の間で何があったか、互いに何をして欲しかったか、どんなことに感謝して、どんなことに苦しんだか、それは夫と私しか、わからない。夫に謝りたいことばかりが、次から次へと、どんどん出てくる。自…
アパートの最寄り駅に到着して、駅前のロータリーに降りた。夫と似た色のコートを着た人が、目の前を通る。夫と背格好も違うし、年齢も違う。ただ、男性で、コートの色が似てるだけ。そんな共通点がほとんどない人なのに、待ってましたとばかりに、私の目か…
今日こそ、最後かな。アパートのクリーニングの日。朝から電車で向かう。 久しぶりの電車移動。久しぶりの街中。こんなにたくさん人がいて、こんなに平和な世界なのに、こんなに穏やかな空気なのに、夫はこの中のどこにもいないんだなと思った。いるはずの人…
夫の闘病中くらいから、私の中で考えが変わったことがあった。 それは、誰かのために、特に家族のために、全力で尽くすということを、諦めようということ。 夫には、100%尽くす。夫と私の信頼関係から、それは間違いない。 でも、夫以外の人には、もっと割り…
テレビ番組で、おじいちゃんがお孫さんと交流して幸せそうな姿をみて、夫のお父さんが浮かんだ。夫に対しては無関心な父として長年やってきた義父だけど、子供は可愛いと思うみたい。夫が亡くなった後、街で小さい子供とエレベーターですれ違った時、子供の…
今日は、夫の最後の数ヶ月について、たくさん考えている。 夫は亡くなるだいぶ前に、もし自分が亡くなることがあれば、誰も葬儀には呼ばないでほしいと言っていた。誰か呼ぶとしても、みんみんと、自分の親だけにしてと言っていた。会話の最後には、みんみん…
ほとんど見知らぬ人に、連絡を取った。 夫が体調を崩す前に一緒に旅行したサンフランシスコで会った人。路面の洋服やさんで、夫はミントグリーンと黒のチェックの半袖シャツを買った。レジのお会計のとき、お店のお兄さんが、前に日本に滞在していたと言う。…